東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)20号 判決
一 特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点についての原告主張の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
原告は、引用例記載の考案は、(一)「苗載台の横移動装置を機体(ないし機体側)に設けた」構成ではなくて、「苗載台の横移動装置を螺旋回転軸ケース内に設けた」構成であり、また、(二)「苗載台は横移動装置によつて作動する」との構成ではなくて、「苗載台は横移動装置によつて横移動する係合腕を介して横移動する」構成であるから、本願考案は、右(一)及び(二)の点で引用例記載の考案とその構成を異にするのに、本件審決はこの構成上の相違点を看過誤認した違法がある旨主張する。
1 そこで、まず、右の(一)の主張について判断する。
成立に争いのない甲第二号証の一(本願公報)及び二(昭和五六年七月一三日付手続補正書)によれば、本願考案における横移動装置は、第1図において符号(16)で示された個所に存するものであること、換言すれば、機体(2)の一部に横移動装置が設けられているものであること、ただ、考案の詳細な説明に、「(15)は横移動装置(16)に連結させた連杆であつて、これにねじ(17)、支持杆(18)を介して苗タンク(7)を連結して構成している。」(本願公報第三欄第一二行ないし第一四行目)及び「苗床は、横移動装置(16)から連杆(15)、支持杆(18)を介し左右方向に往復移動する苗タンク(7)によつて移動し、」(同欄第一九行ないし第二一行)と各記載されている程度であつて、他に考案の詳細な説明又は図面に横移動装置の具体的構造に関する説明は存しないことが認められる。
しかしながら、前顕甲第二号証の一及び二、並びに成立に争いのない乙第一号証に本件口頭弁論の全趣旨を併せ考えれば、本願考案における苗タンクの横移動装置としては、螺旋軸のような往復移動機構を用いたものであつて、この螺旋軸が回転することにより、この螺旋軸と係合する連杆(15)を左右に往復動させ、その結果、連杆(15)に固定された支持杆(18)、この支持杆(18)に固定された苗タンク(7)を往復動させるものであると認めることができ(したがつて、横移動装置は連杆(15)及び支持杆(18)を含まないことが明らかである。)、以上の事実と当事者間に争いのない本願考案の要旨からすれば、本願考案は横移動装置を機体(ないし機体側)に設けたものということができる。
そこで、引用例記載の考案における横移動装置について検討するに、成立に争いのない甲第三号証の一ないし三によれば、引用例記載の考案においては、支持体11・14によつて支持されている苗受板3、支持腕7・8、調節腕12、螺旋回転軸ケース6からなる一体的構造物のうちの螺旋回転軸ケース6内に保持されている螺旋軸の回転によつて、苗載台2に上端部が固定されている係合腕17を左右往復動させ、それによつて苗載台2を左右往復動させるものであることを認めることができ、右認定を左右するに足る証拠はない。
そして、本願考案及び引用例記載の考案につき認定した前記事実から判断すると、引用例記載の考案における苗載台2は本願考案の苗タンク(7)に相当し、また、引用例記載の考案における係合腕17、螺旋軸はそれぞれ本願考案の支持杆(18)、横移動装置(16)に相当することが明らかであるということができる。
前記認定のとおり引用例における螺旋軸(すなわち本願考案における横移動装置に相当する。)は螺旋回転軸ケース6内に保持されているものではあるが、これを機体(ないし機体側)に設けたものとみるべきかどうかについて検討するに、前顕甲第三号証の一ないし三によれば、引用例記載の考案のフロート1、支持体11・14は機体(ないし機体側)の構成要素であり、その支持体11・14に取付けられた苗受板3、支持腕7・8、調節腕12、螺旋回転軸ケース6からなる一体的構造物は、苗受板3の変位調節時には、機体の前後方向に、苗受板3とともに移動するけれども、その変位調節が終了すれば、螺子10・16によつて支持体11・14に固定され、その結果、フロート1、支持体11・14及び前記一体的構造物は一体的に固定されるものであることを認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はなく、右認定事実からすれば、前記一体的構造物は機体(ないし機体側)に属すると認めるのを相当とし、したがつて、螺旋回転軸ケース6も機体(ないし機体側)に設けられたものとすべきである。なるほど、前記のとおり、螺旋回転軸ケース6が機体(ないし機体側)に最終的に固定状態に取付けられる以前である苗受板3の変位調節の際に、螺旋回転軸ケース6が苗受板3とともに移動するが、このように取付前段階において他の部材に追随する動きをするからといつて、螺旋回転軸ケースが機体(ないし機体側)に設けられたものと認定することを妨げるものではない。
以上によれば、本件審決が、引用例記載の考案について、苗載台の横移動装置を機体(ないし機体側)に設けたとした認定に誤りはないから、原告の前記(一)の主張は採用することができない。
2 次に、前記(二)の主張について判断する。
すでに前段において認定したところからすれば、引用例記載の考案においては、苗載台2は横移動装置によつて横移動する係合腕17を介して左右往復動するが、本願考案の苗タンク(7)(引用例記載の考案の苗載台2に相当する。)も横移動装置によつて横移動する支持杆(18)(引用例記載の考案の係合腕17に相当する。)を介して左右往復動するのであつて、本件審決が引用例記載の考案について、「苗載台は横移動装置によつて作動される」とした認定は、これを苗載台2が横移動するについて介在する部材(すなわち係合腕17)をも加えて、より詳細に説明すると、それはとりも直さず「係合腕を介して横移動する」ものであるとしたものであり、その間に構成の本質的相違はない以上、本件審決の右認定をもつて誤りとすることはできない。よつて、原告の前記(二)の主張も採用することができない。
3 なお、原告は、本願考案は、その構成により、引用例記載の考案にない特有の効果、すなわち、苗受板の前後調節による苗植付本数の調節を行う場合、横移動装置などの重量物を調節移動させる必要がないから、ねじをゆるめるだけで簡単・迅速に調節できるという実用上の効果を奏する旨主張する。しかしながら、前記のように、本願考案も引用例記載の考案もその構成に差異がないものとみることができる以上、両考案は同一の効果を奏するものと認めるべきである。そして、本願考案は引用例記載の考案と同様に「横移動装置が機体(ないしは機体側)に設けられた」ということを発明構成上の必須要件とするものであるが、該要件は、その表現形式からして、横移動装置を保持する部材がはじめから機体(ないし機体側)に固定されたもののみならず、横移動装置を保持する部材が機体(ないし機体側)に最終的に固定状態に取付けられる以前の段階において他の部材に追随する動きをするものも包含するものと解すべきであり、換言すれば、本願考案の構成要件として、横移動装置を保持する部材がはじめから機体(ないし機体側)に固定されるという限定があるわけではなく、苗受板の前後調節による苗植付本数の調節を行う場合、横移動装置などの重量物を調節移動させる必要がないという原告主張の効果を常に奏することが期待できるような構成が記述されているものでない以上、本願考案が原告主張の効果を奏するとすることはできないのである(なお、「ねじをゆるめるだけで簡単・迅速に調節できる。」なる効果は、前顕甲第二号証の一及び二によつても、これを認め難い。)。
それ故、本願考案が原告主張の効果を奏することを前提として、本件審決が本願考案の効果を看過誤認したとする原告の主張も採用することができない。
4 以上のとおりであるから、本願考案は引用例記載の考案と同一であるとし、したがつて、本願考案は実用新案法第三条の二の規定により実用新案登録を受けることができないとした本件審決に違法はない。
三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないので棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
フロート(1)を取付けた機体(2)に苗タンクの横移動装置(16)と一定の植付軌跡(イ)を描いて作動する植付杆(3)とを設け、該植付杆(3)の前記植付軌跡(イ)にのぞませて苗取出口(4)を形成した苗受板(5)を、機体(2)側の支持部材(6)に植付杆(3)に対して遠近調節可能に取付け、該苗受板(5)には、前後方向には一体的に移動し横方向には互に滑動可能で、前記機体(2)側に設けられた横移動装置(16)によつて作動される苗タンク(7)を設けてなる田植機における苗タンク支架装置。